課税所得で変わる NISA iDeCo 税メリット計算ステップ
あなたのNISA・iDeCo税メリット額はいくら?課税所得と掛金の影響を理解する
資産形成において、NISAやつみたてNISA、iDeCo(個人型確定拠出年金)といった制度は、税制優遇を受けられる点が大きな魅力です。これらの制度を活用することで、将来のための資産を効率的に築くことが期待できます。
しかし、「税制優遇がある」とは聞くものの、具体的に「自分の場合はいくら税金が安くなるのか」「年収や掛金が変わるとどう影響するのか」といった点まで正確に把握されている方は少ないかもしれません。税制メリットの金額は、お一人お一人の年収や他の所得控除の状況によって算出される「課税所得」、そしてNISAやiDeCoへの拠出額(掛金)によって変動します。
この記事では、NISA・iDeCoを活用した際に得られる税メリットが、具体的にどのように計算されるのか、特にiDeCoの所得控除に焦点を当て、課税所得や掛金がその金額にどう影響するのかを、具体的な計算ステップを交えて解説いたします。ご自身の税メリット額をより正確に理解し、資産形成プランを立てるための一助となれば幸いです。
NISA・iDeCoがもたらす税制優遇の仕組み
NISA(少額投資非課税制度)とiDeCoは、それぞれ異なる仕組みで税制優遇を提供しています。
iDeCoの税メリット:拠出時の所得控除
iDeCoの最大の税制メリットは、毎月の掛金が全額「所得控除」の対象となる点です。所得控除とは、所得税や住民税を計算する際に、課税対象となる所得金額から一定額を差し引くことができる制度です。
iDeCoの掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として全額が所得控除の対象となります(所得税法第76条)。これにより、所得税と住民税の計算対象となる課税所得が減少し、結果として納める税金が軽減されることになります。
また、iDeCoで運用によって得られた利益(運用益)も非課税となります。これはNISAと同様のメリットです。さらに、原則60歳以降で受け取る際の給付金にも税制優遇が設けられています。
NISAの税メリット:運用益の非課税
NISA(つみたて投資枠・成長投資枠)の主な税制メリットは、投資によって得られた利益(運用益、配当金、分配金など)が非課税となる点です(租税特別措置法第9条の8、第9条の9など)。通常、株式投資や投資信託の運用益には20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)の税金がかかりますが、NISA口座での運用益はこの税金がかかりません。
この運用益の非課税メリットは、iDeCoのように直接的な税金の還付や軽減(所得控除)をもたらすものではありませんが、運用で得た利益をそのまま再投資に回せるため、複利効果を最大限に活かした効率的な資産拡大に繋がります。
iDeCo所得控除による税メリット額の具体的な計算ステップ
iDeCoの所得控除による税メリット額は、主に「掛金」と「課税所得に応じた税率」によって決まります。ここでは、その計算ステップを解説します。
ステップ1:ご自身の「課税所得」を把握する
税金(所得税・住民税)は、「収入」そのものではなく、「課税所得」に対して課税されます。課税所得は、年収から給与所得控除(会社員の場合)や、社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除、そしてiDeCo掛金などの「所得控除」を差し引いた金額です。
年末調整のお知らせや、確定申告書の控えなどで確認することができます。正確な課税所得額を知ることが、税メリット計算の第一歩となります。
ステップ2:課税所得に応じた「所得税率」を確認する
所得税の税率は、課税所得が増えるにつれて段階的に高くなる「累進課税制度」が採用されています。
| 課税所得金額 | 所得税率 | 控除額 | | :------------------------- | :------- | :--------- | | 195万円以下 | 5% | 0円 | | 195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 | | 330万円超 695万円以下 | 20% | 427,500円 | | 695万円超 900万円以下 | 23% | 636,000円 | | 900万円超 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円| | 1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円| | 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円|
※この税率は、所得税と復興特別所得税(原則として各年分の所得税額の2.1%)を合わせたものではありません。上記は復興特別所得税を除く税率です。実際の所得税は、この税率で計算した金額に復興特別所得税を加算します。
住民税率は、原則として課税所得に対して一律10%です(均等割を除く)。
ステップ3:iDeCo掛金による「所得控除額」を確認する
iDeCo掛金は、年間拠出額の全額が所得控除の対象となります。例えば、毎月23,000円(年間276,000円)を拠出している場合、276,000円が所得控除額となります。
ステップ4:軽減される「所得税額」を計算する
軽減される所得税額は、「iDeCo掛金による所得控除額 × ご自身の所得税率」で計算できます。
例:課税所得400万円、所得税率20%の方が年間27.6万円をiDeCoに拠出した場合 軽減される所得税額 = 276,000円 × 20% = 55,200円
ステップ5:軽減される「住民税額」を計算する
軽減される住民税額は、「iDeCo掛金による所得控除額 × 住民税率(原則10%)」で計算できます。
例:課税所得400万円、住民税率10%の方が年間27.6万円をiDeCoに拠出した場合 軽減される住民税額 = 276,000円 × 10% = 27,600円
ステップ6:合計の「税メリット額」を計算する
年間合計の税メリット額は、軽減される所得税額と軽減される住民税額を合計した金額です。
例:上記の場合 合計税メリット額 = 55,200円(所得税) + 27,600円(住民税) = 82,800円
この金額が、iDeCoに年間27.6万円拠出することで、年間にわたって手元に残る税軽減額の目安となります。この金額は、税金として徴収されるはずだったものが手元に残る(あるいは還付される)という形でメリットを享受できるものです。
課税所得の変化が税メリットに与える影響
上記の計算ステップからわかるように、iDeCoの所得控除による税メリット額は、掛金だけでなく、ご自身の課税所得(すなわち所得税率)によって変動します。
- 課税所得が高い方: 所得税率が高くなるため、同じiDeCo掛金でも軽減される所得税額が大きくなります。例えば、課税所得が900万円超で所得税率33%の方の場合、年間27.6万円のiDeCo拠出による税メリット額は、所得税部分だけで276,000円 × 33% = 91,080円となり、住民税と合わせると118,680円となります。課税所得が低く所得税率が5%の方の税メリット額(所得税+住民税で約4.1万円)と比較すると、その差は明らかです。
- 課税所得が低い方: 所得税率が低くなるため、所得税に関する税メリット額は小さくなります。ただし、住民税(原則10%)の軽減メリットは依然として享受できます。また、iDeCoには運用益非課税や受け取り時の税制優遇といった他のメリットもありますので、所得控除額が小さくても検討に値する制度です。
このように、iDeCoの所得控除メリットは、特に課税所得が高い方にとって非常に大きな節税効果をもたらします。一方で、NISAは運用益の非課税メリットが中心であり、運用益が出た場合に税金がかからないというメリットのため、課税所得の水準による直接的な税メリット額の変動はありません(ただし、運用規模や期間によって非課税となる税額は大きく変動します)。
ご自身の正確な税メリット額を把握するために
NISA・iDeCoの税制メリットは、お一人お一人の状況(年収、所得控除の種類・金額、iDeCo掛金、NISAでの運用益など)によって異なります。この記事でご紹介した計算ステップはiDeCoの所得控除による税メリットを理解するための一例ですが、ご自身の正確な課税所得や適用税率を知ることは、具体的なメリット額を計算する上で不可欠です。
ご自身の条件でNISAやiDeCoを活用した場合に、具体的にどれくらいの税金が節約できるのかを知ることは、賢い資産形成の第一歩となります。ぜひ、ご自身の状況に基づいた税メリット額を診断し、制度活用の具体的なイメージを掴んでみてください。
資産形成は長期にわたる取り組みです。税制メリットを最大限に活用し、効率的な資産づくりを進めていきましょう。なお、税制は将来変更される可能性もありますので、最新の情報やご自身の具体的な状況については、専門家にご確認いただくこともご検討ください。