NISA iDeCo 税メリット 計算の鍵 税率と課税所得の関係 詳解
NISA・iDeCoの税メリットが資産形成に果たす役割
資産形成を考える上で、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)といった制度の名前を耳にする機会は多いかと存じます。これらの制度が多くの注目を集める理由の一つに、税制優遇、いわゆる「税メリット」があります。この税メリットは、単に税金が少し安くなるという話に留まらず、長期的な資産形成において非常に大きな効果をもたらす可能性を秘めています。
しかし、NISAやiDeCoによる税メリット額は、すべての方が一律に同じ金額を得られるわけではありません。ご自身の年収、家族構成、他の控除状況など、個々の条件によってその金額は変動します。特に、税メリット額を具体的に計算する上で鍵となるのが、「所得税率」と「課税所得」の関係です。
この記事では、NISAおよびiDeCoがどのような税制優遇を提供し、そのメリット額がご自身の「課税所得」と「所得税率」によってどのように決まるのかを詳しく解説いたします。ご自身の税メリット額を知るための計算ロジックを理解することで、制度の活用価値をより深く実感し、具体的な資産形成プランを検討する一助としていただければ幸いです。
NISA・iDeCoの税制優遇の仕組み
まず、NISAとiDeCoが提供する主な税制優遇について、改めてその仕組みを確認します。
iDeCo:掛金の所得控除
iDeCoの最大の税メリットは、毎月または毎年積み立てる掛金が、全額「所得控除」の対象となることです。
所得控除とは、所得税や住民税を計算する際に、税金がかかる対象となる所得(これを「課税所得」と呼びます)から差し引くことができる金額のことです。所得から所得控除を差し引いた後の「課税所得」に対して税率をかけて税額が計算されるため、所得控除額が大きいほど、課税所得が少なくなり、結果として所得税と住民税の負担が軽減されます。
このiDeCoの掛金に係る所得控除は、所得税法上の「小規模企業共済等掛金控除」として定められており、年末調整や確定申告を行うことで税の軽減措置を受けることができます。
NISA:運用益の非課税
NISAの税メリットは、投資によって得られた運用益(売却益や分配金など)が非課税になることです。
通常、投資信託などを売却して利益(譲渡所得)が出たり、分配金(配当所得)を受け取ったりした場合、その利益に対しては所得税および住民税が課税されます。現在の税率は合計で20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)です。つまり、10万円の運用益が出た場合、通常であれば約2万円の税金が差し引かれます。
しかし、NISA口座内で投資を行った場合、この運用益や分配金にかかる20.315%の税金がゼロになります。租税特別措置法に基づき、一定の年間投資枠(つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円)内で投資した金融商品から生じる運用益が非課税とされています。
税メリット額は「課税所得」と「税率」で決まる
NISAとiDeCo、それぞれの税メリットは仕組みが異なりますが、どちらも「課税所得」とそれに紐づく「税率」が具体的な税メリット額を計算する上で非常に重要になります。
iDeCoの所得控除と税率の関係
iDeCoの掛金による税メリット額は、「所得控除額(=iDeCo掛金)」と「適用される所得税率および住民税率」によって決まります。具体的な軽減額は、以下の式で表すことができます。
iDeCoによる年間の税メリット額 ≒ iDeCo年間掛金 × (所得税率 + 住民税率)
所得税は、課税所得が高くなるほど税率が高くなる「累進課税制度」を採用しています。下表は、日本の所得税率(速算表の一部)です。
| 課税される所得金額 | 所得税率 | 控除額 | | :--------------------------- | :------- | :--------- | | 195万円以下 | 5% | 0円 | | 195万円超 330万円以下 | 10% | 9万7,500円 | | 330万円超 695万円以下 | 20% | 42万7,500円| | 695万円超 900万円以下 | 23% | 63万6,000円| | 900万円超 1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円| | 1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円| | 4,000万円超 | 45% | 479万6,000円|
一方、住民税の所得割の税率は、一般的に所得にかかわらず一律10%です(市町村民税6%、都道府県民税4%)。
したがって、iDeCoの掛金による税メリット額は、ご自身の課税所得によって決まる所得税率と、住民税率(原則10%)の合計税率分が軽減されることになります。課税所得が多く所得税率が高い方ほど、iDeCoによる税メリット額は大きくなるというわけです。
例えば、年間24万円(月2万円)をiDeCoに積み立てている方で、課税所得が500万円の場合を考えます。課税所得500万円にかかる所得税率は20%です(上表参照)。住民税率は10%とすると、合計税率は30%です。
この場合の年間税メリット額は、以下のようになります。 iDeCo年間掛金 24万円 × 合計税率 30% = 7万2,000円
つまり、この方はiDeCoに年間24万円拠出することで、年間7万2,000円の所得税・住民税が軽減される計算になります。
NISAの運用益非課税と税率の関係
NISAの運用益非課税による税メリットは、将来の運用成果に依存するため、iDeCoの所得控除のように拠出時点で具体的な節税額が確定するものではありません。しかし、そのメリットの仕組みは「本来かかるはずだった税金(税率20.315%)がゼロになる」というものであり、やはり税率が影響しています。
もしNISA口座で投資を行わずに、同じ運用を課税口座で行っていたとしたら、得られた運用益に対して20.315%の税金が課せられることになります。NISAを利用することで、この20.315%分の税負担が回避できるため、運用益が大きくなるほど非課税メリットの金額も大きくなります。
例えば、NISA口座で100万円の運用益が出たとします。 通常課税口座の場合:100万円の運用益 × 20.315% ≒ 20万3,150円の税金 NISA口座の場合:100万円の運用益 × 0% = 0円の税金
この場合、NISAによる税メリット額は、運用益100万円に対して約20万3,150円となります。運用期間が長く、複利効果によって運用益が大きくなるほど、非課税メリットの金額も累積的に大きくなる可能性があります。
自分の正確な税メリット額を知るためには
ご紹介したように、NISA(運用益非課税)とiDeCo(所得控除)の税メリットは、それぞれ異なる仕組みで税負担を軽減しますが、特にiDeCoの所得控除による節税額は、ご自身の「課税所得」とそれに紐づく「所得税率」、そして「住民税率」によって具体的に金額が計算されます。
ご自身の正確な課税所得や適用される所得税率は、年収から給与所得控除や社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除といった様々な所得控除を差し引いた後に確定します。これらの控除額は個々の状況によって大きく異なります。
そのため、ご自身の年間掛金や年収、各種控除の状況を入力してシミュレーションを行うことが、具体的な税メリット額を把握するための最も有効な方法となります。ご自身の条件で計算することで、iDeCoによる所得税・住民税の軽減額がいくらになるのか、より正確な金額を知ることができます。また、NISAについても、将来的な運用益に応じた非課税メリットのイメージを持つことが、制度活用のモチベーションに繋がるかと存じます。
資産形成を進める上で、税メリットは非常に強力な武器となります。ぜひご自身の状況に基づいた具体的な税メリット額を把握し、NISA・iDeCoの活用をご検討ください。
まとめ
NISAとiDeCoは、それぞれ運用益の非課税、掛金の所得控除という強力な税制優遇を提供し、資産形成を後押しする制度です。これらの制度による税メリット額は、特にiDeCoにおいては、ご自身の課税所得や所得税率によって大きく変動します。課税所得が多く、所得税率が高い方ほど、iDeCoの所得控除による税メリット額は大きくなる仕組みです。
ご自身の正確な税メリット額を知ることは、制度活用による経済的なメリットを具体的に把握し、資産形成の計画を立てる上で非常に重要です。個人の状況に応じた税メリット額を把握するためには、ご自身の年収や掛金、他の所得控除などを考慮した計算が必要となります。
制度や税制は将来的に変更される可能性もございます。ご自身の判断と責任に基づき、最新の情報をご確認いただいた上で制度をご活用ください。