NISA iDeCo 税メリット計算 他の税控除が与える影響
NISA iDeCoの税メリットは、他の税控除によってどう変わるのか
NISAやつみたて投資枠、iDeCo(個人型確定拠出年金)が、資産形成において税制優遇を受けられる有利な制度であることは広く知られています。これらの制度の主な税メリットは、iDeCoの掛け金が「所得控除」になること、そしてNISA・iDeCoともに運用によって得られた利益が「非課税」になることの2点です。
特にiDeCoの所得控除は、毎年の所得税と住民税の負担を直接的に軽減してくれるため、加入を検討される方の大きな関心事となります。しかし、この所得控除による税メリット額は、ただ掛け金に税率を掛ければ算出できるという単純なものではありません。なぜなら、所得税や住民税の計算においては、iDeCoの所得控除以外にも様々な控除が存在し、それらが複雑に関係し合っているためです。
この記事では、NISA・iDeCo、特にiDeCoの所得控除による税メリットが、他の税控除(社会保険料控除、生命保険料控除、住宅ローン控除など)によってどのように影響を受けるのか、その仕組みと計算の考え方について解説します。ご自身の正確な税メリット額を知るためには、これらの他の控除を考慮した計算が必要となります。
iDeCoの所得控除と課税所得の計算
まず、iDeCoの掛け金が所得控除になることによる税メリットの仕組みを確認しましょう。
所得税や住民税は、収入から給与所得控除や必要経費などを差し引いた「所得金額」から、さらに「所得控除」を差し引いた「課税所得」に対して税率を掛けて計算されます。所得控除には、基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除など、様々な種類があります。iDeCoの掛け金(小規模企業共済等掛金控除)も、この所得控除の一つです。
つまり、iDeCoに加入し掛け金を支払うと、その掛け金全額が所得控除として、他の所得控除と合算して「所得金額」から差し引かれ、税金がかかる対象となる「課税所得」を減らすことができるのです。
所得控除額が多ければ多いほど、課税所得は少なくなります。そして、日本の所得税率は「累進課税制度」が採用されており、課税所得が多いほど税率が高くなる仕組みです。住民税率は原則として一律10%ですが、所得割額の計算において所得控除が影響します。
iDeCoの所得控除による税メリット額(税金の軽減額)は、以下の式で計算されます。
iDeCoの所得控除による税メリット額 ≒ iDeCo年間掛金 × (所得税率 + 住民税率)
例えば、iDeCoの年間掛金が24万円で、所得税率が20%、住民税率が10%の場合、税メリット額は24万円 × (20% + 10%) = 7.2万円となります。この7.2万円は、所得税から4.8万円、住民税から2.4万円軽減されるイメージです。
他の税控除がNISA iDeCoの税メリットに与える影響
ここで重要になるのが、「他の税控除」の存在です。
前述の通り、所得控除はiDeCo以外にも多数あります。社会保険料控除(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料など)、生命保険料控除、地震保険料控除、そして多くの家庭に関係する基礎控除、配偶者控除、扶養控除などです。
これらの他の所得控除も、iDeCoの所得控除と同様に課税所得を減らす働きをします。そして、iDeCoの所得控除もこれらの他の所得控除も、基本的には「合計した金額」で課税所得から差し引かれます(※税法上の計算順序やルールはありますが、ここでは簡易的に解説します)。
他の税控除が多額にある場合、あなたの「課税所得」は、iDeCoに加入する前からすでにかなり低くなっている可能性があります。
例えば、年収が同じ2人がいたとします。 Aさん:独身、扶養親族なし、生命保険や地震保険への加入なし、住宅ローン控除なし。 Bさん:配偶者あり、子2人を扶養、生命保険に加入、住宅ローン控除あり。
この場合、BさんはAさんに比べて、配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除、住宅ローン控除(※住宅ローン控除は税額控除ですが、所得控除と併せて課税所得や税額計算に影響します。後述します。)など、様々な控除が適用されるため、同じ年収でも課税所得がAさんより大幅に少なくなる可能性が高いです。
課税所得が少ないということは、所得税の「累進課税」の仕組みにより、適用される所得税率も低くなることが多いです。
先ほどの例で、Aさんは所得税率20%、住民税率10%だったとしても、Bさんは他の控除によって課税所得が抑えられ、所得税率が10%になっているかもしれません。この場合、iDeCoに年間24万円拠出したとしても、Bさんの税メリット額(所得税分)は24万円 × 10% = 2.4万円となり、Aさんの4.8万円よりも少なくなる、という現象が起こり得ます。
これは、iDeCoの所得控除による税メリットが、課税所得を減らすことで適用される所得税率によって決まるためです。他の控除が多い人は、すでに低い税率が適用されているため、iDeCoの所得控除が適用されても、それによって軽減される税額(所得税分)は、同じ所得控除額でも税率が高い人より少なくなるのです。
また、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)についても触れておきます。これは「税額控除」といって、所得控除のように所得金額から差し引くのではなく、所得税額そのものから一定額を差し引く制度です。税額控除は所得控除よりも優先的に税金を減らす効果があります。住宅ローン控除が多額にある場合、所得税額がゼロになることもあります。このような状況では、iDeCoの所得控除によって課税所得を減らしても、元々の所得税額がすでにゼロに近いため、所得税分の税メリットは非常に小さくなるか、あるいはゼロになる可能性もあります。ただし、住民税からの控除はありますので、全くメリットがなくなるわけではありません。
このように、あなたの年収だけでなく、配偶者の有無、扶養親族の人数、生命保険や地震保険の加入状況、病気の有無(医療費控除)、そして住宅ローン控除の適用など、他の様々な税控除の状況によって、iDeCoの所得控除による具体的な税メリット額(軽減される税金の金額)は大きく変動するのです。
具体的な税メリット額を知るためのポイント
NISAの運用益非課税メリットは、運用益が出た場合にその利益にかかる税金(通常20.315%)がゼロになるというもので、他の控除の影響は直接受けません。しかし、iDeCoの所得控除による税メリットは、他の控除、特に所得控除の金額によって間接的に影響を受けます。
ご自身の状況でNISA・iDeCo、特にiDeCoの所得控除がどれくらいの税メリットになるのか正確に知るためには、以下の点を把握する必要があります。
- ご自身の年間所得金額: 収入から給与所得控除などを差し引いた金額です。源泉徴収票や確定申告書で確認できます。
- ご自身に適用される他の所得控除額の合計: 基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、医療費控除など、ご自身が受けられる全ての所得控除の合計額です。年末調整の書類や確定申告書、各種控除証明書などで確認できます。
- ご自身の課税所得金額: 「年間所得金額」から「他の所得控除額の合計」を差し引いた金額です。
- ご自身の適用所得税率: 上記3で算出した課税所得金額に応じて決まる所得税率です。所得税の速算表で確認できます。
これらの情報が揃うと、iDeCoに加入した場合の課税所得の減少額と、それによって軽減される所得税・住民税額をより正確に計算することが可能になります。
例えば、課税所得が400万円で所得税率20%の方が、年間24万円iDeCoに加入すると、課税所得が376万円になり、おそらく所得税率は20%のままです。この場合、所得税メリットは24万円 × 20% = 4.8万円です。 しかし、他の控除が多いために課税所得が180万円で所得税率5%の方が、年間24万円iDeCoに加入すると、課税所得は156万円になり、おそらく所得税率5%のままです。この場合、所得税メリットは24万円 × 5% = 1.2万円となります。
このように、他の控除が多いことによって課税所得が低い層では、iDeCoの所得控除による所得税メリットは相対的に小さくなる傾向があります。ただし、住民税のメリット(原則一律10%)は多くのケースで享受できます。
制度の根拠と診断ツールの活用
NISAの運用益非課税は租税特別措置法に基づき、iDeCoの所得控除(小規模企業共済等掛金控除)は所得税法に基づき認められている税制優遇です。これらの制度を最大限に活用するためには、ご自身の税金計算の全体像の中で、NISAやiDeCoのメリットがどのように位置づけられるかを理解することが不可欠です。
ご自身の年収、家族構成、そして他の様々な税控除の状況を踏まえた上で、NISAやiDeCoが具体的にどれくらいの税メリットになるのかを正確に計算するには、専門的な知識や計算が必要です。当サイトの税メリット診断ツールは、これらの複雑な要素を考慮して、あなたの条件に合わせた具体的な税メリット額を算出することを目的としています。
ご自身の正確な税メリット額を知ることは、NISAやiDeCoを始めるべきか、あるいはどれくらいの金額を拠出すべきかを判断する上で非常に役立ちます。ぜひ診断ツールをご活用いただき、ご自身の資産形成に役立ててください。