NISA iDeCoで手取りアップ? 税メリットが手取り額に与える影響 計算の考え方
NISA・iDeCoの税メリットは手取り額をどのように増やすのか
将来のための資産形成を考える上で、NISAやつみたてNISA、iDeCoといった制度に関心をお持ちの方は多いかと存じます。これらの制度が「税制優遇」を受けられるという点はよく知られていますが、具体的にご自身の手取り額にどのような影響を与え、どれくらいお得になるのかまで把握されている方は少ないかもしれません。
NISA・iDeCoの税メリットは、単に将来の運用益が非課税になるだけでなく、特にiDeCoの場合は、日々の手取り額や年間の税負担に直接的な影響を与える場合があります。ご自身の条件でその影響額を理解することは、制度活用を検討する上で大変重要です。
本記事では、NISA・iDeCoの税メリットが、皆様の所得税や住民税の負担を軽減し、結果として手取り額を増やす仕組みについて、その計算方法や考え方を分かりやすく解説いたします。
NISAとiDeCo 税メリットの仕組みをおさらい
NISAとiDeCoは、それぞれ異なる形で税制優遇を提供しています。手取り額への影響という観点では、特にiDeCoのメリットが大きいと言えます。
1. iDeCo(個人型確定拠出年金)の税メリット
iDeCoの最大の税メリットは、「掛金の全額所得控除」です。 毎月または毎年拠出した掛金の全額が、その年の課税所得から差し引かれます(所得税法第74条)。課税所得が減るということは、それにかけられる所得税と住民税の計算対象額が減ることを意味します。
具体的には、以下の税金が軽減されます。
- 所得税: 課税所得に所得税率をかけて計算される税金です。所得控除により課税所得が減ることで、所得税額が減少します。所得税率は、課税所得に応じて5%から45%まで変動する累進課税となっています。
- 住民税: 均等割と所得割があり、所得割は課税所得に対して原則10%(道府県民税4%、市町村民税6%)の税率をかけて計算されます。所得控除により課税所得が減ることで、住民税額(所得割部分)も減少します。
この所得控除による税負担の軽減は、毎年受けられるメリットです。年末調整や確定申告を通じて税金が還付されたり、翌年の住民税が減額されたりするため、これが直接的に「手取り額が増える」効果に繋がります。
また、iDeCoでもう一つ重要な税メリットが「運用益の非課税」です。iDeCo口座内で運用して得た利益(運用益、配当、分配金など)には、通常20.315%かかる税金がかかりません(租税特別措置法第9条の7、第9条の8など)。
2. NISA(少額投資非課税制度)の税メリット
NISA(つみたて投資枠、成長投資枠)の最大の税メリットは、「運用益の非課税」です。 NISA口座内で投資して得た利益(運用益、配当金、分配金など)には、通常20.315%かかる税金がかかりません(租税特別措置法第37条の14など)。非課税投資枠の範囲内であれば、いくら利益が出ても税金はゼロです。
ただし、NISAにはiDeCoのような「掛金の所得控除」のメリットはありません。そのため、NISAの税メリットは、投資元本そのものではなく、将来得られる運用益に対するものです。これは、運用がうまくいって初めて享受できるメリットであり、iDeCoのように掛けた時点で税金が軽減され、手取りが増えるという直接的な効果とは性質が異なります。
NISAの非課税メリットは、特に長期にわたって運用益が積み重なる場合にその効果を大きく発揮します。運用益に税金がかからない分、複利効果を最大限に享受しやすくなり、効率的な資産形成が可能となります。
税メリットが手取り額に与える具体的な影響:計算の考え方
では、これらの税メリットが、具体的に皆様の手取り額にどれくらいの影響を与えるのでしょうか。特にiDeCoの所得控除に焦点を当てて計算の考え方を解説します。
1. iDeCoの所得控除による手取り増加額の計算
iDeCoの掛金による税軽減額は、以下の式で簡易的に計算できます。
税軽減額(≒手取り増加額) = iDeCoの年間掛金総額 × (所得税率 + 住民税率)
例えば、iDeCoに毎月2万円(年間24万円)拠出している方がいるとします。その方の所得税率が10%、住民税率が10%だと仮定すると、年間で軽減される税金は約24万円 × (10% + 10%) = 24万円 × 20% = 48,000円となります。
この48,000円は、本来支払うべきだった税金から差し引かれる金額であり、実質的な手取り額の増加分と考えることができます。つまり、年間24万円をiDeCoに拠出しても、税金が48,000円減るため、手元から実質的に出ていく金額は24万円 - 4.8万円 = 19.2万円のようなイメージになります。
重要なポイントは「所得税率」です。所得税率は、収入から様々な所得控除(給与所得控除、社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除、そしてiDeCoの掛金控除など)を差し引いた後の「課税所得」の金額によって決まります。課税所得が多いほど所得税率は高くなります。
| 課税所得 | 所得税率 | | :--------------------- | :------- | | 1,000円 ~ 195万円未満 | 5% | | 195万円 ~ 330万円未満 | 10% | | 330万円 ~ 695万円未満 | 20% | | 695万円 ~ 900万円未満 | 23% | | 900万円 ~ 1,800万円未満 | 33% | | 1,800万円 ~ 4,000万円未満 | 40% | | 4,000万円以上 | 45% |
(※上記は2024年現在の所得税率であり、復興特別所得税は含んでいません。住民税率は原則10%固定です。)
この表からも分かるように、同じ年間24万円をiDeCoに拠出したとしても、課税所得が300万円の方(所得税率10%)と、課税所得が800万円の方(所得税率23%)では、軽減される所得税額が異なります。
- 課税所得300万円の方の税軽減額目安: 24万円 × (10% + 10%) = 48,000円
- 課税所得800万円の方の税軽減額目安: 24万円 × (23% + 10%) = 79,200円
このように、所得税率が高い方ほど、iDeCoの所得控除による税メリット(手取り増加効果)は大きくなります。
2. NISA・iDeCoの運用益非課税による手取り増加効果
運用益非課税のメリットは、将来の受け取り時に税金がかからないという形で手取りを増やす効果を持ちます。これは、運用期間が長く、運用益が大きくなるほどその差は顕著になります。
例えば、NISAで100万円を投資し、年間5%の運用益が出たとします。1年目の運用益は5万円です。通常であれば、この5万円に対して20.315%の税金(約10,157円)がかかりますが、NISA口座であれば税金はかかりません。
この「税金がかからないこと」が、長期的な資産形成に大きく寄与します。税金で差し引かれる分が再投資されることで、複利効果が大きくなり、運用期間が長くなるほど非課税のメリットは雪だるま式に増えていきます。
ただし、運用益非課税による将来の手取り増加額を具体的に計算するには、将来の運用利回りや運用期間を仮定する必要があり、iDeCoの所得控除のように拠出した金額からすぐに算出できるものではありません。あくまで「将来の資産の目減りを防ぎ、受け取り時の手取りを最大化する」効果として捉えるのが適切です。
自分の条件で税メリットを計算することの重要性
ここまで見てきたように、NISA・iDeCoの税メリット額、特にiDeCoの所得控除による手取り増加額は、ご自身の課税所得や所得税率によって大きく変動します。課税所得は、年収だけでなく、加入している社会保険料、生命保険料控除、地震保険料控除、医療費控除、扶養家族の有無など、様々な要因によって一人ひとり異なります。
そのため、「他の人がいくら節税できているから、自分も同じくらいだろう」と考えるのではなく、ご自身の正確な課税所得や適用される税率を把握し、計算してみることが非常に重要です。
ご自身の正確な税メリット額を知ることは、以下の点において有益です。
- 制度活用のモチベーション向上: 具体的な金額を知ることで、税メリットの大きさを実感し、積極的に制度を活用する動機になります。
- 無理のない掛金・投資額の検討: 税メリット額と照らし合わせながら、家計の状況に応じた適切な掛金や投資額を検討できます。
- 将来設計への具体性: 資産形成における税メリットの影響を理解し、より現実的な将来設計を立てることができます。
ご自身の所得情報(源泉徴収票など)を基に、所得控除額を計算し、課税所得を割り出すことで、正確な所得税率や住民税率が分かります。その上で、NISA・iDeCoの掛金や投資額に応じた税メリット額を計算することが、最適な資産形成の第一歩と言えるでしょう。
まとめ
NISAとiDeCoは、それぞれ異なる形ではありますが、税制優遇を通じて皆様の資産形成を強力に後押しする制度です。特にiDeCoの所得控除は、拠出した掛金に応じて所得税・住民税が軽減され、直接的な手取り額増加に繋がる強力なメリットです。この税メリット額は、ご自身の課税所得や税率によって変動するため、ご自身の条件で計算してみることが重要です。
NISAの運用益非課税は、将来の運用成果に対する税負担をゼロにし、効率的な資産拡大を支援します。長期投資による複利効果を最大限に引き出す上で欠かせないメリットです。
ご自身の年収や家族構成、他の控除状況などを踏まえ、NISA・iDeCoを活用することで具体的にどれくらいの税メリット(手取り増加効果や将来の非課税メリット)が得られるのかを把握することが、賢い資産形成の鍵となります。